古道具屋の亭主が汚い太鼓を仕入れてくる。おかみさんはそんなものが売れるはずがないと叱る。「どうしておまえさんはものが分からないのかねえ」。ところがさる大名に三百両で売れる。落語「火焔太鼓(かえんだいこ)」の一場面。お金を目の前にしたこのおかみさんの豹変(ひょうへん)ぶりがおかしい。「あらあ、おまえさんは商売が上手」▼落語「御慶(ぎょけい)」のおかみさんの変わり身も早い。富くじを買うという亭主に当たるはずがないと反対する。「そんなに富(くじ)がいいなら、富と一緒になったらいいじゃないか」。そう言いながら的中すると「だから、富はちょくちょく買わなきゃって言ってたのよ」▼ばつの悪そうな二人のおかみさんの顔が浮かんでくる、ワールドカップ(W杯)ロシア大会での日本代表の奮闘である。二度もリードされながら追いついたセネガル戦に未明の眠さを忘れた▼開幕前の不振、直前の監督交代で日本代表に対する世間の期待は二人のおかみさんと同じとは言わぬまでもかなり冷めていた▼低い期待や逆境にもめげることなく、難敵と懸命に渡り合い、結果を残す。そのひたむきな姿が世間の声をすっかり「あらあ日本代表はサッカーが上手」に変えた。大したものだ▼16強入りが見えてきた。今まで通りののびのびしたプレーを願う。どんな結果になろうと日本代表への世間の評価はもはや豹変しようがなかろう。