出臼、肥料、三太丸屋。これが何を意味するかを即座に理解できる人は少ないだろう。出臼は父なる神のデウスであり、肥料はキリストを意味するフィリオ、三太丸屋はサンタマリア。今も残るカクレキリシタンの信徒が使った当て字だそうだ▼徳川幕府による禁教令の結果、信徒は迫害を避けるため、仏教などを隠れ蓑(みの)にしてでもキリシタンを信仰し続けた。宣教師も途絶え、口伝だけが頼りの教えは長い歳月の間、本来のカトリックから大きく変質していったそうだ▼オラショ(祈り)の内容やそもそもどういう宗教なのかさえも分からなくなる。それでも信じ、伝えた。出臼などの表記は口伝のオラショを何とか忘れぬために置き換えて使った漢字らしい▼悲しみの歴史に光が当たった。「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の世界文化遺産への登録が正式決定した。関係者はお喜びだろう。事実上二度目の挑戦での朗報。登録を信じ続けたかいがあったというものである▼先祖が迫害されながらも大切にした信仰を自分の代で絶やすわけにはいかぬ。禁教で、変化はしても途絶えなかった背景は信徒のそうした熱であろう▼過疎と少子化の時代である。かの地においても、人口減が進む。せっかくの文化遺産である。今後長く守り続けていく担い手を育てていくことも急務であろう。伝え続ける力が再び必要である。