人類はどこまでマラソンの記録を短縮できるかという研究がある。カナダの研究者によると代謝能力や有酸素運動の持続能力、記録更新のペースを考えれば、二〇二八年に二時間を切り、四〇年には一時間五十七分十八秒まで短縮できるのではないかと分析しているそうだ▼二時間を切る二八年といえば十年後。難しいと疑っていたが、ひょっとしてと期待してしまう大記録が生まれた。ケニアのキプチョゲ選手(33)。ベルリン・マラソンで世界新記録となる二時間一分三十九秒をたたき出して優勝した▼一八九六年のアテネ五輪記録が二時間五十八分五十秒。距離は約四十キロで現在のフルマラソンに換算すれば三時間七分前後。百二十二年かけ人類初の二時間一分台までたどり着いた▼これまでの世界記録だった二時間二分五十七秒(二〇一四年)を一気に一分十八秒も縮めている。上半身の揺れの少ないフォームに速さの理由があるらしい▼運動記録には、不思議な傾向がある。マイル・レース(約一・六キロ)を四分以下で走るのは人間の機能として不可能だろうと長い間考えられていた▼ところが、一九五四年に一人の選手が四分を切る。すると、その後に三分台を記録する選手が続出したそうだ。だれかが「できる」と証明すればそれを励みに続く者が現れる。二時間一分台は可能だったとキプチョゲ選手が全人類に旗を振る。