敗戦が迫っていたころ、ちまたに多くの流言、デマが乱れ飛んでいたという。「北アルプスに建設中の地下要塞で敵を迎え撃ち、撃滅する」「強力なロケット弾が完成すれば、ニューヨークも火の海になる」「最強の関東軍が無傷だ。本土決戦で勝てる」などだ。形勢が一気に変わるかのような偽情報ばかりだったと、ルポライター竹中労が記している▼食糧事情は厳しく、敗色は濃いと多くの人が感じていた。本土での戦争への恐怖とかすかな望みにかけたい願望が、流言になって表れたようだ▼戦争や地震に関わる流言は不安、不満、恐怖、願望といった感情を基礎にしているという(広井脩著『うわさと誤報の社会心理』)。非常時になるとその強さを増す、デマを生むエネルギーだろう▼「六時間後に震度7が来る」「全域が断水する」。北海道地震の被災地に、インターネットを中心にデマが広まっていたことが明らかになってきた。背景に、やはり不安と恐怖があるだろう。給水が続いたのに水が品薄になる地域もあったようだ▼東日本大震災や朝鮮人虐殺が起きた関東大震災だけではない。幕末以来、大きな災害になるとデマが流れたことも分かっている▼ネット経由のデマがあることを知っている人は多いはずだが、今回も混乱が起きた。恐怖のあるところには、デマがある。いっそう心に刻みたい教訓ではないか。