中国の五行説は、四季に四色を配している。青春、朱夏、白秋、そして黒い冬、玄冬だ。青春時代があるのなら、他の三つの時代が人生にあってもいいのではないか。宗教評論家のひろさちやさんがかつてそう主張していた▼そのうえで、白秋時代とは暗い冬を控えながら、<世俗を離れて、ゆったりと生きる時期>(『こころの歳時記』)ではないかと書いている。古代インドの人生観にも学んだようだ。働き盛りを過ぎたころからか、あるいは定年後あたりからか。身辺の整理に手を付けながら、心穏やかに過ごす日々。共感する人もいるだろう▼現実の白秋時代は別の方向に向かっている。政府は継続雇用の年齢引き上げの議論を本格化させた。高齢者の雇用拡大も目指している。生涯現役社会である。財政にも、人手不足にもいいそうだ▼元気で意欲がある人には、望ましい社会だろう。先週は、厚生労働省が厚生年金の受給開始を遅らせた場合の試算を公表している。場合によって、大きく増えるようだ▼一方で、人はいつまで現役なのか。どこまで働いて、いつ余生に入るのか。秋から冬にかけての人生観が、これから始まるという社会保障制度の改革のなかで、みえなくなっていないか▼<道にまよっているばかり>とは流行歌の「青春時代」だ。白秋に迷いは似合わない。穏やかな季節にしなければならないだろう。