冥土に通じる六道の辻(つじ)と考えられた場所が京都にある。あの世とこの世の境目だ。ここの飴(あめ)屋に毎夜、青白い顔の女が訪ねてきた。一文銭を手に「ひとつ売っていただけませんか」。落語にある『幽霊飴』である▼「どうもあれはただもんやない」。あちらの方か、こちらの人か。店の者は迷う。三途(さんず)の川の渡しにと棺おけに入れる六文を思い出した。七日目、女は銭を持っていない。すでに亡くなっていて、生き残った子どもの飴がほしくて…▼あちら側とこちら側が接する境界線には、物語が生まれる。六道の辻が登場する作品は多い。戸惑いの物語となるのだろうか。来年秋には、こちらの境界線も、逸話を生むことになりそうだ▼消費税の引き上げを前に、国税庁が先日、課税ルールの手引を改訂した。適用される軽減税率をめぐり、8%なのか、10%なのか。迷うケースがある。境界線の分かりにくさである▼回転ずし店で最初から持ち帰りなら8%で、食べきれず持ち帰ると10%。スーパーで買って、ベンチで食べる。見覚えのある光景だが、場合によって適用外になる。線引きが難しそうな例が実に多い。確かなのは、直感的にすべてを理解するのは、困難だということだ▼店側の準備と客側の理解が進まないと、混乱は起きるだろう。あちらなのか、こちらなのか、辻で戸惑えば、増税への不満までも膨らんでこよう。