「政治家に大切なものが二つある」。十九世紀の米政治家マーク・ハナが言っている。マッキンリー大統領の参謀だった人でいわく「ひとつはマネー」。なるほど。「もうひとつは忘れた」。金しかないのか▼お金もそうだが、今の日本の政治家に出世の上で大切なものは人事、特に閣僚ポストだろう。大臣に何回なったか、何大臣に起用されたか、政治家の能力やましてや人間性とは無関係に「実力」と見なされる。したがって皆、必死になる▼衆院当選連続十一回。高い政治手腕、人脈、交渉力を持ちながら、ついに大臣とは縁のなかった実力政治家の死を悼む。自民党の園田博之さん。七十六歳。大臣になれなかったわけではない。ならなかった▼一九九三年、新党さきがけを結成し、自民党政権打倒につないだ。以降も続く目指した政界再編の長い道のり。成功も失敗もあった▼されど、己の欲で政界をさまよう人ではなかった。「政治家にとって大切なもの」。そう聞かれれば、「より良き政治」とちょっと照れながらも本音でそう答えただろう。少しでもより良き政治に向けて知恵をしぼり、説得し、もがいた人である▼父親の園田直さんは外相などを歴任した。大臣経験のない息子を叱るまい。いかに自民党を倒したか。自民党と社会党(当時)にどう政権を組ませたか。奇跡の大仕事を興味津々で聞きたがるだろう。