酔った藩士の刃傷事件を反省し、ある藩が禁酒を宣言した。門の前には番屋を置き、酒の出入りを固く見張る。古典落語の「禁酒番屋」である。五代目柳家小さんが酒を実にうまそうに口にする場面が懐かしい▼無論、禁を破る不届き者もでてくる。ある藩士に頼まれた酒屋が菓子屋になりすまし、カステラの箱にとっくりを忍ばせ、持ち込もうとするが、番屋で箱を開けろと迫られる。「なんだ、このとっくりは。かようなカステラがあるか」「へい、今度、手前どもの店でできた水カステラでございます」。作戦は失敗する▼見抜けぬ「水カステラ」ではなかったはずだ。日本航空の男性副操縦士が乗務前の過剰飲酒で英警察当局に逮捕された問題である。副操縦士はアルコール感知器に呼気をちゃんと吹きかけない方法で社内検査をすり抜けていた▼安全を売る航空会社の検査である。こんな子どもだましの「水カステラ」が通用したとは情けない▼同社ばかりではなく、他の航空会社でも、機長の飲酒による運航の遅れが相次いでいる。緊張や不安を強いられる職場であることは想像できる。検査の厳格化はもちろんだが、そのカステラに手を伸ばしたくなる原因と心の対策も急がねばなるまい▼「オイ、ちゃんと操縦しろよ」「なに、操縦しているのはおまえだろう」。酒にまつわるジョーク集で見つけた。今は笑えない。_