「白黒で三千円、カラーで五千円」。男が耳元でささやく。男がお金を取って見せようとしているのは昔のテレビ番組。倉本聰さん脚本のドラマ「6羽のかもめ」(一九七四年放映)の一場面である。テレビの低俗化に業を煮やした政府がテレビ放送を禁止した近未来社会を劇中劇の形で描いている▼テレビ局はすべて廃止。家庭のテレビや番組を録画したテープもすべて没収される。それでも、みんなテレビが見たくてヤミの上映会へこっそり出かける。「先週、(東京の)青砥(あおと)でコロンボ見ちゃった」「(泣きそうに)ほんと?ほんと?青砥のどこ!」▼もはや死語の「テレビっ子」のOBとしては、古い番組のヤミ上映会に足を運びたくなるが、その新しい放送はどうだろう。一日から始まった4K8K衛星放送である▼白黒、カラー、地上デジタルと進化し続けてきたテレビの新たな形。より鮮明で美しい映像を楽しめる▼魅力的な半面、いまひとつ盛り上がらぬのは現在の2K放送でも十分きれいでさほど必要性を感じないという部分もあるかもしれぬ。テレビではなく、スマートフォンなどで動画や配信映像を楽しむ人が増えている時代である。新技術はテレビの前に家族を再び集められるか▼肝心なのは高画質の映像でなにを見せるかだろう。期待する一方で4K8Kがテレビの「四苦八苦」と読めてしかたがない。