災難を逃れる方法がある。そう教えているのは、江戸期の禅僧、良寛である。越後を襲った地震で子を失った知人宛ての書状に書いている。「災難に逢(あ)う時節には災難に逢うがよく候。死ぬ時節には死ぬがよく候。これはこれ災難を逃るる妙法にて候」▼災難が来たら災難に遭えばよい。死ぬ時には死ぬのがよい。きょうび、SNSにこんなことを書き込めば、それこそ災難が降りかかろうが、教えているのは災難を災難と考えるのではなく自然現象としてそのまま受け止めるしかないというところか▼今年の漢字。選ばれたのは災害の「災」だった。西日本豪雨に大阪北部地震、北海道胆振東部地震。台風被害も大きかった。夏の猛暑は災害として扱われた。「災」に振り回された一年でその字が人の心から離れなかったのだろう▼良寛は「災」をただ受け止めなさいというが、現代においてはそうあっさりとうなずけぬところもある▼「わざわい」の「わざ」とは神の行為の意味と聞く。良寛の時代なら、なるほど「災」とは自然現象に他ならぬが、異常気象の背景とされる地球温暖化を思えば、現代の「災」という字の裏には自然ばかりではなく間違いなく人間がいる▼人が対策をすれば、人があらためれば、「災」の字を小さくできぬか。そう考えた時、良寛さまは笑おうが、「災難に逢うがよく候」とはあきらめきれぬ。

 
 

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