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 笑い声のない家で少年は育った。父親はたびたび家を飛び出し、母親は泣いてばかりいた。息苦しい生活のなか少年が見つけた数少ない楽しみはチャプリンの映画だった▼笑いを商売にする人間は必ずしも笑いの絶えぬ家庭で育つものとは限ら […]

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 <またしても女房が言ったのだ/ラジオもなければテレビもない/電気ストーブも電話もない/ミキサーもなければ電気冷蔵庫もない>。山之口貘の「ある家庭」。ある家庭といっても貘さんの家のことである▼高度成長期の一九六〇年代前半 […]

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 台本にある自分の役を見て、声を上げたという。<苗字(みょうじ)のある役だワ>。女優の菅井きんさんだ(著書『わき役 ふけ役 いびり役』)▼農家の娘トメの役で舞台にデビューして以来、苗字なしの役ばかりを演じてきた。だから、 […]

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 悪い行いはいつも邪悪な心のみによって引き起こされるとは限らない。オーストリア生まれで、二つの世界大戦に翻弄(ほんろう)された作家ツバイクは、なぜ第一次大戦が起きたかについて、参戦した国には<動機さえも見出しえない>とし […]

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 正直にいえば、このコラム、甲子園球場にプレーボールのかかる二時間前から書き出している▼禁じ手かもしれぬ。どちらが勝ったか。どんな結果になったか。それを見ずして野球は書けぬ。結果がすべて。おおげさなことをいえば、人の営み […]

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 ひところの猛暑もやや落ち着き、都会のセミの声にツクツクボウシがよくまじるようになってきた▼その名は鳴き声の聞きなしからきているが、『日本語オノマトペ辞典』によると、平安期は「クツクツボウシ」で室町期に現在の「ツクツク」 […]

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ジャズ歌手のサラ・ボーンがある日、やはり歌手のエタ・ジェイムスにこんなことをこぼしたそうだ。一九六〇年代前半のことだろう。「あの娘の『スカイラーク』(ジャズスタンダード曲の一つ)を聞いたかい。ああ、あたしはもう、あの歌を […]

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  誰が最初に「ABCの歌」を歌うかでマペット(人形)たちがもめている。「あたしが一番に」「あんたはこの間、歌ったでしょ」「わたしの歌はかわいいわ」。収まらない中、ある人物がやって来る。「何か問題でも」。マペットたちが一 […]

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   財政難で危機にひんしていた江戸幕府は思い切った手を打った。貨幣の金、銀の含有量を減らす元禄の改鋳だ。同量の金でより多くの小判を作る。小判の価値の水増しである▼幕府には大きな利益がもたらされたという。通貨の供給量も増 […]

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<月へ向かうときは技術者だったが、帰ってきたら人道主義者になっていた>。アポロ14号に乗った米宇宙飛行士エドガー・ミッチェル氏の言葉だ。『地球/母なる星』(小学館)には、宇宙を旅して、人生観を新たにした二十世紀の宇宙飛行 […]

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